こんにちは!
香港の橘拓也(たちばな たくや@TMax2525)です。
中国の全人代(中国全民代表大会)で5月28日、香港版「国家安全法」が採択されました。中央政府により「国家安全法」が急転直下、採択されることになり、その日を前に香港では市民と警察の衝突があり、日本や世界で大々的に報道されました。
ニュースを受けてよく質問や連絡が来るので、香港にいて感じること、身近で見たり聞いたりしたこと、思うことを中立的な観点から私なりにまとめましたのでご紹介します。
香港デモ報道の過激化
昨年2019年夏からの香港でのデモの状況について、日本のニュースの報道を見て、香港は大丈夫か、安全なのか、心配だ、などとよく聞かれます。テレビのニュースの報道では、黒ずくめ服のデモ隊が街中で駅、建物、商店などに破壊活動を行い、警察と対立して強制的に排除されている場面がよく報じられています。
ニュースの報道なので注目を集める衝突シーンばかりに焦点が当てられています。ニュースなので見ごたえのあるシーンを報じるのは当然ですが、それを見て香港市民全員が反抗しているのか、香港の街全体が混乱に陥っているのか、というと決してそうではありません。日本の友人などからあたかもそうであるかのようにきかれることがありますが、ニュースの場面は断片的なものであり、それがすべてを語っているわけではありません。
報道の偏り
世界のメディアはそれぞれの国々より偏りがあり、プロパガンダをしていると巷ではよく言われますが、最近の中国と香港の報道に関しては素人でも感じるぐらい顕著であからさまです。私は香港に来てから報道の偏りを嫌というほど感じています。
私は日本、欧米、香港、中国大陸のニュースをチェックしています。報道の偏りが甚だしいのは想像の通り、中国大陸の報道です。中国の一般市民なら誰でも見るWeChat(微信)のニュースを私も目を通しています。Wechat (微信) とは日本のLINEのようなSNS、メッセージ交換アプリです。
香港デモに関しては、実は大陸では世界ほどに大々的に詳細に報じられていません。報道されている内容は暴徒化したデモ隊が街中を破壊し、香港警察が取り締まっている写真付きの場面ばかりです。このような断片的な内容しか報じられないので、大陸中国人の間ではデモ隊は危険な存在、香港警察は街を守る正義の味方、という構図の認識をもっています。
一方、香港、日本を含む世界の報道の多くは、デモ隊の平和的及び破壊活動だけでなく、警察の過剰な暴力についてもまんべんなく報じています。
私は香港と中国大陸にも友人がおり、1人の外国人として微妙な立場で双方の話を聞いています。大陸中国人は愛国精神を強制的に受けて育っているので、真っ向から香港の民主運動の話をしても共感する人はいないでしょうし、逆に憤慨する人もいます。説明や説得しようとしても時間の無駄なのでこの手の話題は避けるか、相手の話を聞くだけにとどめておくのが無難です。
私はうかつにも大陸中国人の知合いに、「大陸のニュースって洗脳的だよねー」と言ったところ、かなり憤慨させてしまいました。もちろん、オープンでリベラルな思考の大陸中国人もいるので、「そうなんだよねー」と肯定する人もいますが、どちらかというと少数派です。
デモ参加逮捕者の年齢
「国家安全法」が採択される日の前の、5月24日には香港島の銅鑼湾(コーズウェイベイ)で若者を中心としたデモ隊が集まり抗議活動を行いました。またその日の夜は旺角でもデモ隊と警察の衝突が起こりました。抗議活動においては、商店のガラスを割るなどの破壊活動が行われ、警察が催涙弾を発射するなど強制排除されています。
この時は確かに、香港島の銅鑼湾(コーズウェイベイ)と旺角は混乱した現場になりましたが、尖沙咀や他の場所はいたって平和そのものでした。香港デモのニュースが日本で流れると、決まって日本の知合いなどから、そんなに頻発しているのか、毎日の日常生活やビジネスはどうなのか、といろいろ聞かれます。日常生活は普通ですし、頻繁と感じるほど今は発生していません。
注目したいのはデモ参加者の人達の中身です。デモ参加者は平和的な人達と、過激な人達がいます。香港市民全員が反抗的で暴力な活動に参加しているのかというとそうではありません。参加者の半数以上は10代~20代の学生です。また、デモ参加に関連した逮捕者の半分以上は25歳以下という統計があります。

世代の違い
香港にいる30歳以上は元々は広東省から来て定住するにようになった世代で、この世代の多くある程度の富を成し遂げて経済的ゆとりのある人たちが多いです。多くは香港は中国の言うことを聞くべきで最終的に中国に戻るべきだと考えています。この世代にももちろん民主化を支持する人も多くいますが、実際にはデモ活動に参加しません。仕事、家族、子供があり、万が一逮捕されたら失う代償が大きいからです。
企業においては、デモ活動に関する規定などはまちまちですが、従業員という立場上、万が一逮捕や拘留により解雇されるのを恐れているので、会社勤めの参加者は多くありません。
一方、20代以下の香港生まれ香港育ちのデモ参加者は、学生、独身、親と同居している人達。失うものはない、逮捕され自分の将来の代償を払ってでもデモ活動に参加したい、と覚悟を決めている人達です。2019年の6月から始まった抗議活動もちょうど夏休み期間で時間を持て余した若者の参加者がほとんどです。逮捕されたら弁護士費用、保釈金など金銭面で多大なお金を支払わなければなりません。もちろん、学生の身分で払えるわけはなく、親や親戚、友人、寄付などにより賄っています。親のヘルプがある学生はまだいい方で、親子の縁を切られて追い出されたという話も聞きます。
20代の若者は公には語ることはありませんが、私の香港人の親しい友人は「デモ活動は支持、不支持に関わらずやっても無駄。中国は巨大で、中国と香港は切っても切れない関係にあり、いつかは中国に返されることになる」、「若者たちの暴力的な活動はスマートじゃない、やっても無駄」と冷めた目で見る向きがあるのも事実です。
ビジネスへの影響
30代の親やビジネスを営む世代になると、デモ活動による家計や経済的影響のほうを心配する声が大半です。
それでも、2019年6月19日に行われた200万人デモは注目に値します。香港の約700万人の人口のうちの約200万人が参加し、その日は若者だけでなくベビーカーを押した子供ずれの姿も多く見られ、胸が熱くなる平和的なデモでした。しかしながら、その日以降のデモ活動からデモ参加者の一部に過激な活動が見られるようになり、多くの大人は冷ややかな目で見る向きが多くなりました。
結果的に、今までのデモ活動、さらに追い打ちかけるように発生した新型コロナウイルスにより、不動産、旅行、飲食、小売は大打撃を受け、閉店や倒産、従業員の解雇、給料カットに追い込まれています。
日系企業に限らず企業の駐在員はビジネス消失による帰国や転勤、給与カットを命じられるなど、心の中では正直、会社や生活が懸かっているので香港デモはいい迷惑、いい加減にしてほしい、と考えている人が多くいます。

経済や投資環境への影響
香港国家安全法が導入されデモや集会が禁じられることになり、違法とみなされれば刑事罰となります。芸能界、経済界、多くの企業はこの法律の支持を表明しています。支持を表明しなければ中国での活動や仕事がなくなってしまう、という現実的で経済的な背景があります。
香港の大富豪でハチソングループの創設者の李嘉誠(リカシン)は、「長期的な安定と繁栄に良い影響。恐らく深読みする必要はないだろう。提案されている新法によって中央政府が香港に対して抱いている懸念が和らぎ、今後の前向きな見通しにつながることを望む」というコメントを出しています。
HSBC、スタンダードチャータード銀行、スワイヤーグループ(太古集団)は、香港経済の社会的秩序の安定と長期的な発展に繋がる、という趣旨の声明を発表し、香港国家安全法を支持しています。
経済面においては大きな影響を受けており、昨年からのデモ活動と新型コロナウイルスにより、香港の多くのビジネスは疲弊しています。香港資本、外資、日系ともに多方面で影響を受けており、ビジネスチャンスの消失、売上減、従業員解雇、給与カットに追い込まれています。個人レベルの生活面に目を向けると、私の日本人や香港人の知合いにも、解雇や給与減少の憂き目にあっている人が多くいます。
個人的には民主活動と金融業は別物であり、重大な影響はないと考えています。香港の銀行、証券会社、保険会社、などの投資金融商品については、あくまでも入り口がたまたま香港というだけであり、投資商品の運用先は世界に向けられています。会社は香港にありながら、他のオフショア地域に籍を置いて資産管理と運用をしているのは一般的です。
民主活動はこれからも続くでしょうが、反政府に対する集会、行為及び活動、は処罰の対象となり政治的には安定してくるかもしれません。民主活動で自由を訴えるのは正当なことかもしれませんが、破壊、暴力、犯罪行為で自由を訴えるのは全く相容れない行為です。
移民という選択
自由が失われたと嘆きの声が多くありますが、一部の犯罪者を取り締まる法律であり、大多数の一般市民生活にとっては何ら関係や影響なく、今まで通りの生活様式は変わらないはずです。
これからも普通に仕事して、週末は尖沙咀、旺角、コーズウェイベイで買い物や食事、郊外へハイキング、新型コロナウイルスが沈静化すればまた海外旅行へ行くようなるでしょう。
香港人の海外移民の相談件数は今までにも増して増えていますが、大陸中国人や香港人の海外移民は今に始まった話ではなく、もう何十年も前から海外へ移民してる人はとっくに移民しています。移民するにも一定の富裕層のレベルでないとできません。
ちなみにですが、過去に親の世代で移民して子の世代でまた一緒に香港に戻ってきている人達が多くいます。結局は老後になると故郷が一番よいのでしょう。親の介護の為に海外から戻った人もいます。香港人でありながら子供たちは広東語、中国語、英語がどれも中途半端なレベルで職探しに苦労しており、厳しい現実に直面しています。どの言語がネイティブなのわかりません。海外生まれや海外育ちの香港人は私の周囲にもかなりおり、暮らしていると出会うことは多く、相当数の人数がいるかと思われます。
さいごに
昨年の6月から今まで通算で約8000人近くの逮捕者が出ています。最近のデモ活動は新型コロナウイルスの影響で9人以上の集まりは違法、逮捕、訴追されたら多大なお金がかかることがわかり、及び腰になっているので参加人数はぐっと減っています。昨年の200万人デモからほぼ1年、今年5月24日のデモ活動では数千人、国家安全法が採択された日は100人程度です。
今後、数か月以内に国家安全法の詳細が決められることになります。引き続き今後の情勢に注目です。
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